「風の谷のナウシカ」展開 第壱話:トルメキア戦役
※ネタバレ注意
※漫画版「風の谷のナウシカ」で、キャラの描写に気を取られて見失いがちな戦争の大局図を描いたつもりです。
※戦争の展開は、重層的な「風の谷のナウシカ」の物語の一面であって、これが物語の全てではありません。
トルメキア戦役戦史
0、 はじめに
(漫画版「風の谷のナウシカ」表紙)
漫画版「風の谷のナウシカ」は、重層的な物語が同時並行で進んでいく。
表層的な表現面から見れば、絵で誰の場面か表現できるという漫画の特性を生かして、ナウシカ・クシャナ・ユパ・トルメキア王族・土鬼皇族・土鬼僧官といったキャラクターの重層的な物語を展開される。
深い内容面から見れば、人類史的な設定・腐海や蟲の動き・軍事作戦・ナウシカの超人的な処世・自滅へ向かう人類といった重層的なテーマが絡みあっている。
この重層的な物語を一気に読んで、目まぐるしい展開を一発で理解するのは非常に困難だと思う。
・・・
だから、(こんなことを言ってしまうのは多くの方の反感を買うと思うが、)
多くの人が言うように「風の谷のナウシカ」を「愚かな人類」「自然破壊は良くない」といった陳腐で平凡なテーマに帰着させること自体が、この重層性を単層の物語へと改変していると思う。
その際に、失う物語があまりに多い。僕には宮崎監督はむしろそのような陳腐なテーマを皮肉るようにストーリーを綿密に展開させているように思える。
・・・
しかし、そうは言っても人間は一つの物語からしか理解を始めることができない。そこで、今回は「風の谷のナウシカ」の戦争としての経緯を追っていきたい。
1、地勢
西暦4000年頃、トルメキア戦役時の地勢は、
「西に海岸線が弧状の大陸、東に半島が突き出る」
と表現するのがふさわしい。
なお、エクメーネ(居住可能地域、ドイツ語)はわずか大陸南部・大陸東北部、半島部に限られる。大陸中央部は腐海、海は汚染されたアネクメーネ(居住不可能地域)である。
イメージを掴むため、便宜的に、同じく西に大陸、東に半島をもつ東アジアの地名を用いて説明すると以下のようになる
・中国南部→土鬼(ドルク)諸侯国(正式名称、土鬼諸侯国連合帝国)
・朝鮮半島→トルメキア王国
・満州東部→トルメキアの盟約国(辺境諸族)(風の谷、ペジテ市など)
・他→腐海
2、国家
・トルメキア王国
(トルメキア王国第4皇女クシャの武装姿)
政治体制は半島部に位置する王政国家。風俗はヨーロッパ風である。
(トルメキア艦隊)
トルメキアの航空機は、翼を持つ固定翼機であり、推進力が大きい。
絡み合い殺し合う2つの毒蛇が国章であり、それが象徴するように王族内での権力闘争が絶えない。
また、宗教も存在するが、王権が強い。
トルメキア戦役勃発時は
現王側:現王であるヴ王とその3皇子
VS
先王側:先王の唯一の血族であるクシャナ。現王側から狙われている
という対立構図が存在する
・土鬼諸侯国連合帝国
(土鬼皇弟ミラルバ)
大陸南部に位置する連合帝国。風俗は西暦2000年頃に残存するどの民族にも似ていない。
(土鬼浮砲台)
土鬼の航空機は、浮砲台と呼ばれ、空中浮遊でき、大砲を搭載することができる。
聖都シュワには「シュワの墓所」と呼ばれる旧世界の知識を伝える「墓所」があり、その神聖皇帝がその「墓所」を守っている。
神聖皇帝は代々、超常の力を受け継いでいる。
神聖皇帝により創始された宗教が、僧会によって守られている。僧会は知識・支配階級となっている。
トルメキア戦役勃発時は、2人の皇帝がいた。
皇弟:超常の力を持ち、実質的支配者。僧会との結びつきが強い。生物工学による再生施術を受けて延命治療を受けているが、体が脆くなっている。
皇兄:超常の力を持たず、血族的には支配者だが、実質的権力はない。生命工学の移植施術を受けて延命治療を受けている。
3、腐海
・腐海
腐海とは、巨大化した菌類の森であり、その菌類は有毒の瘴気を放出し、人間を死に至らしめる。その瘴気の中では、巨大化した蟲が生態系を形成している。蟲は腐海の外では一定時間経つと死ぬので、基本的に人間の生活圏にはいない。
また、菌類や蟲には様々な種族が存在するが、「森」全体として共同体的絆を持っており、ある蟲や腐海を攻撃したものを「森」全体の敵として総攻撃するという習性をもつ。数万の蟲による集団攻撃の前では、人間の火力はないも同然である。しばしば、この共同体的絆は、「森」の意思として理解される。
1000年前に突如出現した攻撃的な生態系で、本作品での世界観の核となっている。物語が進むと、正体が明らかになる。
・王蟲
最高位の蟲。各地の部族で神聖視されている。人間と念話できる知性をもち、「森」の原理で行動する。ナウシカとの関係が深い。
・大海嘯
大海嘯とは、蟲が人間の生活圏に大挙して押し寄せ、その蟲を苗床に菌類が繁殖し新しい腐海が誕生する現象である。この結果、人間の生活圏が大きな失われる。
直近の大海嘯は、トルメキア戦役の300年前で、王蟲を組織的に乱獲した強大な王国が一つ滅んだ。(風の谷は、昔はその王国の一員だった。)
3、開戦
トルメキアは「シュワの墓所」を目指して、土鬼に進撃を開始、トルメキア戦役勃発に至る。
トルメキア軍は
・主戦線(土鬼南部より直接進撃)(現王側3皇子が担当)
・辺境戦線(腐海を通過し、土鬼北部へ向かう)(先王側クシャナが担当)
の二手に分かれて進撃を開始する。
主戦線の3皇子は破竹の勢いで土鬼を蹂躙する。
辺境戦線のクシャナはペジテ市で発見された未起動の巨神兵を回収する任務に失敗。さらに、辺境諸族を集結させ、腐海を南下するも土鬼による王蟲の大群を使った攻撃で壊滅。
その中で、先王側のクシャナはトルメキア現王側が敵国軍を利用して自分を排除としようした知る。
以降、クシャナはトルメキア軍の指揮下から離れて密かに叛乱を起こす。クシャナの本隊であり主戦線にいる第3軍との合流を目指して、クシャナは土鬼へと向かう。
4、大海嘯
種蒔きのために兵士が浮き足立つのを避けるため、土鬼神聖皇帝は戦争の早期決着をはかそうとした。瘴気を作り出す技術を開発し実戦投入した。それは、蟲すら死滅する猛毒の瘴気を放出する一方、不妊性でかつ短時間で死滅する粘菌であった。
「森」としての共同体的絆は人工的に開発された粘菌にも働き、土鬼中部で使用された粘菌を目指して腐海から蟲の大移動が始まった。
土鬼軍・トルメキア軍・住民・捕虜入り乱れる中で、その全てを蟲の大群が襲った。そして、その蟲を苗床に菌類が成長し、土鬼の真ん中で新しい森が誕生した。
ナウシカが予期していた大海嘯が起こってしまったのである。
トルメキア軍は、
兵力の2/3を失い壊滅状態。3皇子のうち、一人は死亡、二人は王都へ撤退した。クシャナは、第3軍の全3連隊のうち2つを失い、自身は風の谷のガンシップに救出されるも土鬼軍に捕縛された。
土鬼は、
国土の2/3は腐海に没し、戦線は崩壊。実権を握る皇弟ミラルパは、皇兄ナムリスに殺害された。軍事的危機と政治的変化も重なり、皇帝と僧会の権威は失墜することになる。実質的に土鬼諸侯国連合帝国は消滅となる。
5、「土鬼=トルメキア二重帝国」構想
土鬼皇兄ナムリスは、捕縛したトルメキア第4皇女クシャナとの婚姻を通じて、土鬼の再興を図ろうとした。
しかし、土鬼各地で大海嘯の危険を念話で通告していたナウシカが登場によりその計画は崩れる。
土鬼部族はナウシカを救世主とみなし、反乱を起こす。その混乱に乗じて、クシャナが叛乱を起こし土鬼艦隊の指揮権を奪取。さらに、巨神兵の起動装置を持っていたナウシカが巨神兵により自らの「母」みなされ、ナムリスの手から離れる。
皇兄ナムリスも、戦闘の中で戦艦から落下し死亡する。
かくして、神聖皇帝による支配は瓦解し、土鬼諸侯国連合帝国は消滅した。
6、ヴ王によるシュワ攻略
トルメキア王国ヴ王が出陣し、土鬼の聖都シュワを攻略する。「シュワの墓所」の自衛戦闘と巨神兵の登場で、トルメキア軍は壊滅する。
それを契機に、「シュワの墓所」から使者の僧侶が訪れ、ヴ王を中に招く。旧世界の遺産を受け継いでいる「シュワの墓所」は外部の政治権力との協力を求めるため、土鬼の消えた今、新しい王が必要だったのだ。
そこに、「シュワの貯蔵庫」なる隠された場所で、世界の秘密を知ったナウシカも、墓所入りすることになる。
(壮大なネタバレになので言わないが)中で色々あり、ナウシカの指示で巨神兵が「シュワの墓所」を攻撃。「シュワの墓所」は破壊された。
その戦闘で、ヴ王はナウシカをかばって瀕死、死の直前にクシャナに口頭で王位を譲る。
7、終戦
神聖皇帝が死亡したことで土鬼政権が壊滅し、戦争目的である「シュワの墓所」も破壊され、トルメキア戦役は終戦となる。
トルメキア王国の代王として先王側のクシャナが即位し、中興の祖となる。クシャナは生涯代王の立場についたので、以降王になる者は現れずトルメキアは王を戴かない国となった。
8、おわりに
以上をもって、「風の谷のナウシカ」で1〜7巻で触れられている「トルメキアVS土鬼」の戦争の展開について述べた。今回、この文章を書くのにあたって、新しく漫画を読み直し、メモを取った。
今回は、漫画の内容を再構成することに注力して自分の考えを入れられなかったので「解説」となったが、また機会を使って「考察」したい。
「風の谷のナウシカ」解説シリーズ
第零話: ナウシカを読みたくなる話
https://kuncho.hatenablog.com/entry/2018/09/05/224710
第壱話: トルメキア戦役の←イマココ
第弐話: 腐海と蟲(前編)
https://kuncho.hatenablog.com/entry/2018/09/10/223549